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名古屋地方裁判所 昭和56年(行ウ)30号 判決

愛知県碧南市籠田町二丁目八六番地

甲、乙両事件原告(以下「原告」という。)

有限会社衣浦不動産

右代表取締役

加藤久吉

右訴訟代理人弁護士

加藤高規

愛知県刈谷市神明町三丁目三四番地

甲、乙両事件原告(以下「被告」という。)

刈谷税務署長

林昭春

右指定代理人

秋保賢一

伏屋芳昌

花木利明

前川晶

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(甲事件)

被告が、原告に対して昭和五五年三月一四日付でした昭和五〇年分、同五一年分の各法人税更正処分のうち、昭和五〇年分についての総所得欠損金四六万二八四八円、昭和五一年分についての総所得金額〇円を超える部分及び右各更正処分に伴う重加算税の各賦課決定を取り消す。

2(乙事件)

被告が、原告に対して昭和五六年二月二六日付でした昭和五二年分の法人税更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、国税不服審判所長の裁決によつて一部取り消された後のもの)のうち、総所得金額金〇円を超える部分を取り消す。

3(甲、乙両事件)

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  確定申告

原告は、現住所地において金融業及び不動産業を営む法人であるが、被告に対し、昭和五〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「第一係争年度」という。)については別表一の確定申告欄記載のとおり、同五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「第二係争年度」という。)については別表二の確定申告欄記載のとおり、同五二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「第三係争年度」という。)については別表三の確定申告欄記載のとおり、いずれも青色申告書により確定申告を行つた。

2  第一次更正処分等

被告は、第一係争年度については別表一の一次更正及び賦課決定欄記載のとおり、第二次係争年度については別表二の一次更正及び賦課決定欄記載のとおり、原告に対し、いずれも昭和五三年六月二四日、更正及び重加算税の賦課決定の各処分(以下右各処分を併せて「第一次更正処分等」という。)を行つた。

3  第一次更正処分等に対する審査請求

原告は、第一次更正処分等を不服として、昭和五五年八月二日、国税不服審判所長に対し、その取消しを求める審査請求をした。

4  第一次更正処分等の取消し及び第二次更正処分等

被告は、第一次更正処分等について、更正処分の理由に不備などのあることが判明したため、昭和五五年二月二九日、第一次更正処分等の全部を取り消した上、同年三月一四日、原告に対し、第一係争年度については別表一の二次更正及び賦課決定欄に記載のとおり、第二係争年度については別表二の二次更正及び賦課決定欄に記載のとおり、新たな更正及び重加算税の賦課決定処分(以下第一係争年度に係る右更正処分を「更正処分一」、同年度にかかる重加算税賦課決定処分「賦課決定一」といい、第二係争年度に係る右更正処分を「更正処分二」、同年度にかかる重加算税賦課決定処分「賦課決定二」といい、右各処分を併せて「第二次更正処分等」という。)を行つた。

5  第一次更正処分等及び第二次更正処分等に対する各裁決

国税不服審判所長は、被告が第一次更正処分等を取り消したことにより、第一次更正処分等に対する原告の審査請求は原処分の存在を欠くことになつたので、昭和五五年三月一九日、原告の右審査請求を不適法として却下する裁決をなし、同月二四日、その旨を原告に書面で通知した。

これに対し、原告は、同年五月一二日、被告の第二次更正処分等を不服として国税不服審判所長に対しその取消しを求める審査請求を行つたが、国税不服審判所長は、同五六年六月一日、原告の請求には理由がないとしてこれを棄却する裁決をなし、同月一七日、その旨を原告に書面で通知した。

6  第三次係争年度に対する更正処分等

被告は、昭和五六年二月二六日、第三係争年度について別表三の更正及び賦課決定欄に記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定の各処分(以下「第三次更正処分等」という。)を行つた。

7  第三次更正処分等に対する審査請求及び裁決

原告は、被告の第三次更正処分等を不服として、昭和五六年四月一〇日、国税不服審判所長に対しその取消しを求める審査請求を行つたところ、国税不服審判所長は、同年六月一六日、被告の第三次更正処分等を別表三の審査裁決欄に記載のとおり変更する裁決をなし、同月二〇日、原告にその旨を書面で通知した。

8  本件各処分の違法

しかしながら、被告の第二次更正処分等及び国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後の第三次更正処分等(以下右一部取消し後の第三係争年度に係る更正処分を「更正処分三」、同じく同年度における過少申告加算税賦課決定を「賦課決定三」、更正処分一ないし三を併せて「本件各更正処分」、賦課決定一ないし三を併せて「本件各賦課決定」、本件各更正処分及び本件各賦課決定を併せて「本件各処分」という。)は、次のとおり違法事由があるから、いずれも取消しを免れない。

一 所得の過大認定

本件各更正処分は、原告の各係争年度分の総所得金額を過大に認定したもので、違法であり、したがつて、本件各更正処分に付随してなされた本件各賦課決定もまた違法である。

二 理由附記の不備

更正処分一及び更正処分二について附記された理由は、到底原告の帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を示して処分の具体的根拠を明らかにしたものとはいえず、法人税法一三〇条二項に定める理由附記の義務に違反している。

三 除斥期間の徒過

更正処分一は、第一係争年度の法人税の申告期限である昭和五一年三月一日から三年以上経過した昭和五五年三月一四日付でなされているから、同係争年度分に関しては、国税通則法七〇条一項一号に定める除斥期間を徒過してなされたもので、違法である。

9  よつて、原告は、被告に対し、本件各処分のうち確定申告による総所得金額を超える部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし7の各事実はいずれも認める。

2  同8及び9は争う。

三  被告の主張

1  原告の課税所得

一 第一係争年度

原告の第一係争年度の所得金額は、原告の申告に係る所得欠損金四六二万二八四八円に後記の売上計上漏れ金一八〇四万一二三〇円を加算し、これから昭和四九年一月一日から同年一二月三一日での事業年度(以下「昭和四九年度」という。)の繰越所得欠損金六六四万〇一一九円を控除した金一〇九三万八二六三円である。すなわち、

(1) 原告は、昭和五〇年九月ころ、訴外山田政治(以下「山田」という。)から、同人が金融業者らに対して負つていた貸付金債務の肩代わりを依頼されて、これを承諾し、同年一〇月七日、当該債務の担保に供されていた別表五に記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を売却する権限を授与され、かつ、その売却代金を山田に肩代わりして金融業者らに弁済した金額及び根抵当権の抹消費用等の諸経費に充てることの承認を得た。

(2) 原告は、右合意に基づき、別表四の番号1ないし8に記載のとおり、訴外金本英夫(以下「金本」という。)外七名の金融業者らに対し、昭和五〇年一〇月七日に金一八三四万三〇〇〇円、同月一四日に金八八三万円及び同月二七日に金一七二四万六六六七円の合計金四三四一万九六六七円を各交付して、山田の貸付金債務を肩代わり弁済した(以下原告が山田の金融業者らに対する債務弁済に関して同人に対して有するに至つた債権を「債権A」という。)。

なお、原告は、本件第三回口頭弁論期日において陳述された昭和五七年四月一九日付準備書面において右事実を認めていたが、第三三回口頭弁論期日において陳述された同六三年一月一四日付準備書面においてこれを翻えすに至つたところ、被告は、右自白の撤回に異議がある。

(3) 原告は、別表四の番号9ないし一一に記載のとおり、山田に対し、同月一三日に金四〇万円、同年一一月八日に金一〇〇万円及び同月一八日に金一〇〇万円の合計二四〇万円を貸し渡した(以下原告が山田の金融業者らに対する債務弁済以外の理由で融資したことにより同人に対して有するに至つた債権を「債権B」という。)。

なお、原告が、前記と同様に、昭和五〇年一一月一八日付け貸金一〇〇万円の事実について自白を撤回したことに対し、被告は異議がある。

(4) 原告は、山田に対し、同人に対する債権A及び債権B並びに抵当権抹消登記費用等の諸経費概算金二八六万円の合計金四八六七万九六六七円を元本とし、これに昭和五〇年一〇月六日から同五一年二月一日までの四か月分の先取利息として月六分の割合による計算をした金一五三六万円を元本に加算し、その端数を整理した金六四〇〇万円が同人に対する貸金になると告げた上、貸付日を昭和五〇年一〇月六日、貸付金額を金六四〇〇万円と記載した金銭借用証書及び領収証を作成し、これに署名、捺印さあせた。

なお、原告が、前記と同様に、右事実について自白を撤回したことに対し、被告は異議がある。

(5) 原告は、山田から売却を委任された本件各土地を別表五の契約年月日欄に記載の日に、同表譲受人住所氏名欄に記載の訴外生田一雄(以下「生田」という。)外七名に、同表譲渡金額欄に記載の代金で売却し、昭和五一年一月三一日までに売却代金七〇五五万〇〇八七円(生田からの売買契約手付金五〇万円を含む。)を得、また、別表六に記載のとおり、諸経費として金三二四万七三九〇円を支出した。

なお、原告が、前記のとおり、諸経費として別表六の番号1ないし4、8、三及び一七の各項目の支出の事実について自白を撤回したことに対し、被告は異議がある。

(6) 以上により、原告は、山田との取引に関し、前記(5)の土地売却代金七〇五五万〇〇八七円から、債権A及びBの貸付金債権合計金四五八一万九六六七円並びに前記(5)の諸経費金三二四万七三九〇円を差し引いた金二一四八万三〇三〇円の利益を得ているにもかかわらず、確定申告書に添付した損益計算書においては売上高として金三四四万一八〇〇円についてのみ計上しているため、その差額金一八〇四万一二三〇円が売上計上漏れとなるところ、これを原告の確定申告における所得欠損金四六万二八四八円に加算し、昭和四九年度の繰越欠損金六六四万〇一一九円を差し引いた残額の金一〇九三万八二六三円が原告の第一係争年度の課税所得となるのであるから、更正処分一に、原告の所得金額を過大に認定した違法はなく、また、原告の前記行為は、第一係争年度の法人税の課税標準の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当するものであるから、更正処分一に付随してなされた賦課決定一も適法である。

二 第二係争年度

原告の第二係争年度の所得金額は、原告の申告額〇円に、第一係争年度の繰越欠損金の否認額金三二〇万九三〇四円を加算し、これから計上漏れとなつていた支払登記費用等金二万〇六八〇円及び更正処分一で認定された所得金額に対する未納事業税金九九万七五六〇円を減算した金二一九万一〇六四円である。なお、繰越欠損金を否認したのは、原告は、昭和四九年度の繰越欠損金六六四万〇一一九円及び第一係争年度分の繰越欠損金四六万二八四八円があることを前提に、第二係争年度において右繰越欠損金のうち金三二〇万九三〇四円を繰越欠損金として計上したところ、前記一のとおり、昭和四九年度の欠損金は既に第一係争年度においてすべて繰越欠損金として計上されており、また、第一係争年度においては欠損金は発生していないのであるから、第二係争年度において計上すべき繰越欠損金は存在せず、これを損金として計上することはできないからである。したがつて、更正処分二に、原告の所得を過大に認定した違法はなく、また、右の事実は、第二係争年度の法人税の課税標準の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当するのであるから、更正処分二に付随してなされた賦課決定二も適法である。

三 第三係争年度

原告の第三係争年度の所得金額は、原告の申告額〇円に、繰越欠損金の否認額金二五五万七九五一円を加算し、更正処分二で認定された所得金額に対する未納事業税金一三万一四六〇円を控除した金二四二万六四九一円である。なお、繰越欠損金を否認したのは、原告は、昭和四九年度及び第一係争年度分の繰越欠損金のうち第二係争年度における計上分も控除したもののうち金二五五万七九五一円を第三係争年度において損金として計上したが、昭和四九年度の欠損金はすべて第一係争年度において計上されており、また、第一係争年度においては欠損金は発生していないのであるから、第三係争年度において計上すべき繰越欠損金は存在せず、これを損金として計上することはできないからである。したがつて、更正処分三に、原告の所帯を過大に認定した違法はなく、また、原告は第三係争年度の所得を過少に申告したものであるから、更正処分三に付随してなされた賦課決定三も適法である。

以上のとおりであつて、右各算定根拠によりなされた本件各処分は、いずれも適法である。

2  理由附記について

一 第一係争年度

更正処分庁の恣意抑制と不服申立ての便宜を図る理由附記制度の趣旨から、帳簿書類の記載を否認して更正した更正処分一においては、更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、処分の基礎となつた事実を掲げてその判断の過程を示すとともに、帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする必要があるところ、同処分に係る更正処分の通知書の「更正の理由」欄には、その判断の過程が如実に記載され、帳簿書類の記載以上に信憑力のある山田の申立て、不動産売買契約書の写し、関係各領収証等の具体的資料の摘示がなされているのであるから、同更正処分における理由の附記には、何ら違法とされる点はない。

二 第二係争年度

帳簿書類の記載自体の否認を伴わない更正処分二においては、前記理由附記制度の趣旨からも、必ずしも帳簿の記載以上の信憑力のある資料を摘示して更正の理由を具体的に明示する必要はなく、同制度の趣旨を充足する程度に判断の根拠を示せば足りるところ、同処分に係る更正通知書に記載された更正の理由は、右理由附記制度の趣旨を充足する程度に判断の根拠が示されているから、同更正処分における理由の附記には、何ら違法とされる点はない。

3  更正処分一の期間制限について

更正処分一は、原告の1の一ないし三に掲げるような「偽りその他不正の行為」により免れた税額に対する更正処分であつて、昭和五六年六月一日法律第六一号による改正前の国税通則法七〇条二項四号により、その除斥期間は五年となるから、同更正処分においては、原告主張のような除斥期間を徒過してなされた違法はない。

一 利益計上の不足

原告は、山田との取引において、本件各土地の売却代金七〇五五万〇〇八七円から、山田に対する肩代わり弁済資金額及び別途貸付金額の合計金四五八一万九六六七円及び諸経費金三二四万七三九〇円を差し引いた金二一四八万三〇三〇円の利益を得ていたにもかかわらず、その帳簿上は、受取利息金六四万一八〇〇円及び収入手数料金二八〇万円の合計金三四四万一八〇〇円の利益しかなかつたように仮装して計上し、その利益を過少に申告していた。

二 利益の不申告

原告は、第一係争年度の確定申告において、右金三四四万一八〇〇円を収入に計上しているのみで、その余の利益金一八〇万一二三〇円を申告しなかつた。

三 利益の隠ぺい

原告は、本件各土地売却代金の一部である金二八五一万三六七九円を原告の代表者である訴外加藤久吉(以下「加藤」という。)に帰属する山本アヤ子名義の仮名預金口座に入金するなどして、その利益を隠ぺいした。

四 被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の一について

一 冒頭部分のうち、原告の申告に係る所得欠損金額及び昭和四九年度の繰越所得欠損金額が被告主張の金額であることは認め、その余の事実は否認する。

二 (1)のうち、原告が山田から本件各土地を売却する権限を授与されたことは認め、その余の事実は否認する。

三 (2)に事実は否認する。なお、原告は、当初、右事実を認めたが、それは真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであつたから、その自白を撤回する。

四 (3)のうち、原告が、山田に対し、昭和五〇年一〇月一三日に金四〇万円、同年一一月八日に金一〇〇万円を貸し渡したことは認め、その余の事実は否認する。

なお、右否認部分について自白を撤回することは、前記と同様である。

五 (4)の事実は否認する。

なお、原告は、当初、被告主張の肩代わり弁済金と諸経費の合計金四八六七万九六六七円に、山田に対する別口の貸付金を加えて一本化し、端数処理をした金額が金六四〇〇万円になること、その旨を記載した金銭借用証書、領収証に山田が署名、捺印したこと、以上の事実を認めたが、右事実を撤回する(事実は、後記原告の反論1項のとおりである。)ことは、前記と同様である。

六 (5)のうち、原告が、本件各土地を被告主張の者に被告主張の金額で被告主張の日に売却し、その結果被告主張の土地売却代金を得たこと、並びに土地売却に係る諸経費のうち別表六の番号5ないし7、9ないし一四及び一六の各費目を支出したことは認め(ただし、別表六に記載されたもの以外の諸経費が存することは、後記原告の反論3項のとおりである。)、その余の事実は否認する。

なお、右否認部分について自白を撤回することは、前記と同様である。

七 (6)のうち、本件各土地の売却金額、原告の申告所得欠損金額及び繰越所得欠損金額が被告主張の金額であることは認め、その余の事実は否認する。

2  被告の主張1の二のうち、第二係争年度における原告の申告に係る所得金額及び計上された繰越欠損金額が被告主張の金額であることは認め、その余の事実は否認する。

3  被告の主張1の三のうち、第三係争年度における原告の申告に係る所得金額及び計上された繰越欠損金額が被告主張の金額であることは認め、その余の事実は否認する。

4  被告の主張2のうち一は争い、二は争わない。

5  被告の主張3は争う。

五 原告の反論

本件各権係争年度についての原告の各申告所得金額と被告主張の各所得金額との間で差異が生じるのは、結局第一係争年度における原告の所得金額如何によるところ、右係争年度分における原告の所得は、以下のような根拠によつて算定されるべきである。

1  原告の山田に対する債権Aについて

被告は、第一係争年度の原告の所得金額を算定するにあたり、被告が山田所有の土地を売却するに際して現実に支出したのは、山田の金融業者らに対する債務の肩代わり弁済金額及び土地売却に係る諸経費のみである旨主張するが、原告は、山田に対し現実に金六四〇〇万二七八七円を貸付けたものであつて、その経緯は、以下のとおりである。

一 山田は、訴外伊原三郎(以下「伊原」という。)と共同して行つていた事業に失敗して多額の借金を負うようになり、実父から相続によつて取得した本件各土地はすべて金融業者らの担保が設定されるに至つたため、昭和五〇年九月ころ、伊原及びその当時原告と取引のたつた金融業者である訴外早川徹(以下「早川」という。)と共に原告方に訪れ、原告代表者の加藤と交渉した結果、山田においてその所有に係る本件各土地を売却する権限を原告に与え、かつ、その売却代金を原告の山田に対する貸金の元本、利息及び諸経費に充てるという条件で、原告から融資を受けることになり、同年一〇月六日、原告に対し、右土地売却のために必要な権利証、実印及び印鑑登録証明書を預けた。

二 原告は、同月七日から同月二七日までの間、山田に対し、杉浦司法書士事務所において、次のとおり合計金六四〇〇万二七八七円を貸し渡し、その都度、山田から自筆の領収証を受け取つた。

〈1〉 一〇月七日 金一一〇四万六一二〇円

〈2〉 一〇月九日 金一〇万円

〈3〉 一〇月九日 金一四九〇万円

〈4〉 一〇月一三日 金四〇万円

〈5〉 一〇月一四日 金九五三万円

〈6〉 一〇月二七日 金二一九二万円

〈7〉 一〇月二七日 金四一〇万六六六七円

〈8〉 一〇月二七日 金二〇〇万円

三 なお、山田は、同年一一月一五日に至り、原告が一方的に債権Aの額を金六四〇〇万円であるとして、昭和五一年二月一日を期日として弁済を強要し、これに充当するためと称し、山田所有の本件各土地を委任の範囲を越えて売却しようとしたとして、安城簡易裁判所に債務確認の調停の申立て(同裁判所昭和五〇年ノ第二八号事件)をしたが、原告の提出した前記領収証等の資料と加藤の説明に接して疑念を解くに至り、結局、昭和五一年二月五日、山田自身が原告に対し金六四〇〇万円の債務があることを自認するに至り、その旨を相互に確認した調停(以下「本件調停」という。)が成立したのであつて、この一事をもつてしても、原告の主張が正当であることは明らかである。

2  原告の山田に対する債権Bについて

被告は、原告の山田に対する債権Bとして別表四の番号9ないし一一に記載の合計金二四〇万円の債権があつた旨主張するが、同表番号一一については、原告は山田にそのような融資をしたことはなく、また、同表番号9については前項〈4〉と同じであつて重複するから、結局債権Bとしては同表番号一〇の金一〇〇万円のみとなる。

3  原告の立て替えた諸経費について

原告が立て替えた諸経費の金額としては、別表六の番号5ないし7、9ないし一四及び一六に記載のもの以外に以下のものがあり、その合計額は、金二一一万〇九五〇円となる。

一 杉浦増衛司法書士への手数料等の立替分

(1) 昭和五〇年一〇月九日 金五〇万一二三〇円

(2) 同年 同月一一日 金五万五三八〇円

(3) 同年 同月二〇日 金一万八〇二〇円

(4) 同年 同月三〇日 金八万六二四〇円

二 登記簿謄本下付印紙代金の原告立替分

(1) 昭和五〇年九月二二日 金四五六〇円

(2) 同年 一〇月一五日 金七二〇〇円

(3) 同年 一一月一日 金六九〇〇円

三 印紙購入のため使者に対し支払われた日当

(1) 昭和五〇年九月二日 金三〇〇〇円

(2) 同年 一〇月一五日 金三〇〇〇円

(3) 同年 一一月一日 金三〇〇〇円

四 境界杭埋設費用の原告立替分

(1) 昭和五〇年一二月八日 金二万円

(2) 同 五二年八月 金五万円

六 原告の反論に対する認否

1  原告の反論1について

一 冒頭部分、一及び二は争う。

二 三のうち山田がいずれも原告主張の日に原告主張の調停申立てをしたこと及び原告主張の内容の調停が成立したことは認め、その余は争う。

2  原告の反論2は争う。

3  原告の反論3のうち、一の(1)ないし(4)、二の(2)、(3)及び四の(1)の合計額は、結局被告主張の別表六の番号1ないし4の合計額に一致するので、その限りで認め、その余の事実は否認する。

七 被告の再反論

1  山田作成の領収証について

債権Aの金額につき、原告は、山田が原告主張の金額に沿う内容の領収証を作成していることを、自らの主張の根拠としているが、山田作成に係る額面合計金六四〇〇万二七八七円の領収証八通は、以下のとおり山田の本意に基づいて作成されたものではなく、本件取引の実態を反映したものではない。すなわち、実際に山田の債務の整理に必要な金額は、右領収証作成の時点でおよそ金四六〇〇万円くらいであり、山田にとつて、原告から金六四〇〇万円もの金額を借りる必要性はなかつたのであるが、それにもかかわらず、山田が右領収証を作成したのは、原告代表者の加藤から領収証と引換えでなければ融資をしない旨申し渡され、金を借りる弱い立場からやむを絵図右領収証の作成に応じたものであつて、かかる事情は、加藤が山田に全く取引の実態のない額面合計金一億二〇〇〇万円もの公正証書二通を作成させていることからも窺われるのである。したがつて、山田作成の右領収証の記載は信用できず、原告の反論は失当である。

2  調停の成立について

原告は、債権Aの金額について本件調停が成立したことをもつて、自らの主張の根拠とするが、もとより調停の結果如何により事実関係に変動が生ずるものでもないし、加えて、本件調停は、以下の経緯に照らしても、山田の本意に沿うものでなく、取引の実態にも反するものである。すなわち、

一 山田が本件調停の申立てに及んだのは原告主張のとおりであるが、原告は、調停の申立てをするなら本件各土地の売買から手を引くと称して調停期日に欠席を続けたため、訴外須田音次郎(以下「須田」という。)ら山田の親戚一同は、このまま本件各土地の売買が実行されず原告に対する借入期限を徒過すれば、山田に多大な損害が生じかねないことをおそれ、調停委員からも調停の早期成立を求める勧告があつたことから、当時山田の代理人であつた訴外佐藤正治弁護士(以下「佐藤弁護士」という。)を解任した上、山田を説得し、原告の意にそう内容で調停を成立させたのである。

二 したがつて、右調停成立の経過に徴すれば、本件調停においては、山田の債務額について充分な審理をしないまま、専ら調停が停滞することによつて山田に経済的不利益をもたらすことをおそれた調停委員や須田らの説得により、山田にとつて不本意は内容の調停が成立したことが窺われるのであつて、かかる経緯によつて成立した本件調停の内容を自らの根拠とする原告の反論は失当というべきである。

八 被告の再反論に対する認否

すべて争う。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  請求原因1ないし7の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  内容の違法について

原告は、本件各更正処分のうち、各係争年度分の所得金額が原告の確定申告を超える部分は、被告の過大認定であつて違法であり、また、本件各更正処分を前提としてなされた本件各賦課決定も違法である旨主張するので、まず、この点について判断する。

1  第一係争年度

一 当事者間に争いのない事実

原告の第一係争年度の総所得金額の算定に関して、原告の昭和四九年度の繰越欠損金額が金六六四万〇一一九円であること、原告の申告に係る第一係争年度分の所得欠損金の金額が金四六万二八四八円であること、原告が山田から本件各土地を売却する権限を授与され、これを別表五に記載のとおり生田外七名に売却して売却代金合計金七〇五五万〇〇八七円を得たこと、原告が、本件各土地の売却にあたり諸経費として別表六の番号1ないし14の合計金額金一〇四万七三九〇円を山田に代わつて立替払をしたこと(ただし、別表六の番号1ないし4及び8については、当該費目を支出した日等について、当事者間に争いがある。)、原告が、生田に対する違約金として金一〇〇万円を山田に代わつて立替払をしたこと、原告が、山田に対し、昭和五〇年一〇月一三日に金四〇万円、同年一一月八日に金一〇〇万円を貸し渡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

なお、被告は、第三三回口頭弁論期日において陳述した被告の昭和六三年四月二五日付準備書面において、原告が第三回口頭弁論期日において陳述した昭和五七年四月一九日付準備書面においてした、被告の主張1の一の(2)、(3)のうち、昭和五〇年一〇月一八日付貸金一〇〇万円の事実、(4)の事実及び(5)のうち、原告が本件各土地の売却に関する諸経費として原告が認めるものを合わせて別表六記載のとおり合計金三二四万七三九〇円を立替払した事実に対する自白の撤回について異議を述べるが、被告の主張1の一の(4)に関する原告の当初の認否は、借用証書等に記載された金六四〇〇万円のうち、肩代わり弁済金と諸経費の合計金四八六七万九六六七円を超える部分が、被告の主張する先取利息であることを認めるものではない(別口の貸金である旨主張する。)から、後に被告の主張に対する認否1の五のように、認否したからといつて自白の撤回に該当するものではなく、また、その余の各事実に対する原告の自白の撤回は、原告が第五回口頭弁論期日において陳述した原告の昭和五七年九月一三日付準備書面において撤回されたとみるべきところ、被告は第三三回口頭弁論期日に至るまで右の各事実に対する原告の自白の撤回について何ら異議を述べることなく、自白の撤回があつたことを前提にして攻撃防御方法を尽くしてきたのであるから、既に被告において原告の右自白の撤回に対する同意があつたものと認めるのが相当であつて、原告の右自白の撤回は既に有効になされており、第三三回口頭弁論期日になつてした被告の自白に対する異議申立ては理由がない。

二 原告の山田に対する融資額

当事者間に争いのない右事実によると、第一係争年度における原告の所得金額の認定に関する原、被告間の主張の相違は、結局、原告が山田の債務整理のために現実に支出した金額の多寡に帰するところ、この点について、まず被告は、原告は山田が金融業者らに対して負つていた債務額の合計である金四三四一万九六六七円を立替払したに過ぎない旨主張するのに対し、原告は、山田に対し金六四〇〇万二七八七円を八回に分けて実際に貸し渡した旨主張するので、以下この点について判断する。

(1)  前記争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第三及び第一五号証、乙第一、第三、第四、第一四、第一六及び第一八号証、証人早川徹の証言(ただし、後記認定に反する部分を除く。)及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第五、第六、第二一ないし第二三号証、乙第二一号証により真正に成立したものと認められる乙第一五号証、証人須田音次郎及び同余合欣一の各証言、原告代表者尋問の結果(ただし、後記認定に反する部分は除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

〈1〉 山田は、伊原と共にした事業の失敗などから金融業者らに多額の債務を負担すると共に、その所有に係る本件各土地に根抵当権等を設定されたため、本件各土地を売却して債務の整理をすることにし、一時はその整理を親戚の須田に相談するなどしたが、昭和五〇年一〇月初めころになつて、伊原及び金融ブローカーの早川と共に原告方を訪れ、原告代表者の加藤に対し、山田の金融業者らに対する立替弁済を依頼すると共に、金融業者らの担保に供されている本件各土地の売却権限を与えるから、その売却代金をもつて立替弁済金及び担保権抹消等の諸経費に充当してもらいたい旨申し入れた。加藤は、山田らが持参した本件各土地の登記簿謄本から判明した債務者に電話を入れて山田の債務額を調査し、同債務額が四千数百万円であることを把握した上、これに諸経費を加えた金額におよそ月六分で四か月貸し付けた場合の利息分を加えた概算額を金六四〇〇万円と見込み、これを額面上の貸金額とすることにした上、山田に対し、同人の申し入れた条件で立替弁済することに同意した。

〈2〉 加藤は、同月六日ころ、山田に対し、金六四〇〇万円の金銭借用証書(乙第三号証)及び領収書(乙第一八号証)を書かせた上、同月七日から同月二七日までの間に、別表四の番号1ないし8に記載のとおり訴外金本英夫外七名の山田の債務者に対し合計金四三四一万九六六七円の債務を立替弁済し、また、同月一二日から同年一一月七日までの間に、別表五に記載のとおり本件各土地を生田外七名に売却し、売却代金として合計金七〇五五万〇〇八七円を得た。なお、加藤は、右立替弁済とは別途に、山田に対し、同年一〇月一三日に金四〇万円、同年一一月八日に金一〇〇万円、同月一八日に金一〇〇万円を貸し渡した。

以上の事実が認められる。

(2)  もつとも、いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし八の各領収証には、山田が原告から昭和五〇年一〇月七日から同月二七日までの間前後八回にわたつて合計金六四〇〇万二七八七円の金員を受け取つた旨の記載があり、成立に争いのない甲第二号証には、山田が原告に対して金六四〇〇万円借り受けたことを自認する旨の調停が成立した旨の記載があり、更に原告の山田に対する融資額について原告の主張に沿う証人早川徹の証言(以下「早川証言」という。)及び同証言によつて真正に成立したものと認められる右証言と同旨の甲第一二号証並びに原告代表者尋問の結果もあるので、前記認定の理由につき若干付言することとする。

〈1〉 甲第一号証の一ないし八の各領収証については、前掲乙第一八号証によれば、原告は、未だ山田の立替弁済をしていない段階で、金六四〇〇万円を受け取つたとする領収証を作らせたこと、また、いずれも原本の存在及び成立とも争いのない乙第二五、二六号証によれば、原告は、山田に対し全く実体がないにもかかわらず、合計金一億二〇〇〇万円を原告から借り受けたとする公正証書を作らせていることが各々認められ、右事実からすると、甲第一号証の一ないし八についても、原告が債権者としての強い立場を利用して山田の意に沿わない虚偽の内容の領収証を作成させた疑いがあること、その他前掲乙第四、第六、第七、第一五、第一六、第二二及び第二三号証、証人須田音次郎の証言に照らしても、右甲第一号証の一ないし八の記載内容は信用するに足りない。

〈2〉 甲第二号証についても、前掲乙第四、第二二号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二四号証、証人須田音次郎の証言並びに前記認定事実に照らすと、山田は原告の債務整理について不満を抱き、佐藤弁護士に依頼して安城簡易裁判所に調停を申し立てたが、加藤が自己の言い分を認めない限り調停に協力しないという態度に出たため、両者の紛争が長引くことによつて山田の債務整理に支障が生じ、同人が経済的損害を被ることをおそれた須田及び調停委員らが山田に加藤の言い分を通すように説得し、そのため山田も不満ながらも加藤の言い分どおりの調停内容に同意したことが窺われるのであつて、これらの事情に徴すると、甲第二号証から直ちに原告が山田に六四〇〇万円の貸金を有していたと推認するには足りないものというべきである。

〈3〉 甲第一二号証及び早川証言は、前掲乙第七号証と矛盾する上、その変遷の理由につき必ずしも納得いく説明もないこと、早川において山田から金一五三六万円もの報酬を受け取ることを加藤が立替弁済に同意する以前に加藤に告げたか否かの点についても変遷がある上、原告代表者尋問の結果との間にも齟齬があること、早川証言については山田から報酬を分割して受け取つたとするがの額、日時については極めて不明確であること、甲第一二号証については昭和五三年六月三〇日に作成されているが、その作成日付からして原告の本件各更正処分の審査請求のための証拠資料として作成された疑いがあること、その他前掲乙第四、第六、第七、第一五、第一六、第二二及び第二三号証並びに証人須田音次郎の証言に照らして信用するに足りない。

〈4〉 原告代表者尋問の結果についても、早川証言との齟齬がある上、原告が山田に貸し付けたとする金六四〇〇万円余りの現金の資金源が不明確であるなど供述自体に不自然な点が少くなく、その他前掲乙第四、第六、第七、第一五、第一六、第二二及び第二三号証並びに証人須田音次郎の証言に照らして信用するに足りない。

以上、検討してきたところによれば、原告が山田のために支出した金員は、被告主張のとおり、金融業者らに支払つた立替弁済金合計四三四一万九六六七円と山田に貸し渡した金二四〇万円の合計金四五八一万九六六七円であると認められ、これに反する甲第一号証の一ないし八、甲第二、第四、第一二、第二九及び第四〇号証、乙第三及び第一八号証、早川証言並びに原告代表者尋問の結果は信用するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三 諸経費の額

次に、原告が、本件各土地の売却にあたつて山田に代わつて立替払をした諸経費の金額について判断するに、原告が別表六の番号5ないし7、9ないし一一、一三、一四及び一六の各費目の合計金一三五万二四二〇円を支出したことは当事者間に争いがなく、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一六号証の一ないし四、甲第一七号証の二、三及び甲第二〇号証によれば、原告が原告の反論3の一の(1)ないし(4)、二の(2)及び(3)ならびに四の(1)の費目の合計金六九万四九七〇円を支出したことが認められ(もつとも、その合計金額は被告主張の別表六の番号1ないし4の費目の合計額に合致し、その限りでは、当事者間に争いがない)、更に、証人余合欣一の証言によれば、原告は早川に対する報酬金一二〇万円を立替払したことが認められ、以上によれば、結局原告が山田に代わつて支出した諸経費は金三二四万七三九〇円であると認められ、原告において山田に代わつて立替払をしたと主張する原告の反論3の二の(1)、三及び四の(2)の経費合計金六万三五六〇円については、これを認めるに足りる証拠はなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四 原告の第一係争年度の総所得金額

以上の認定事実からすれば、原告の第一係争年度における総所得金額は、原告が本件土地の売却によつて得た土地代金合計金七〇五五万〇〇八七円から山田の債務の立替弁済金合計金四三四一万九六六七円、山田に対する貸金合計金二四〇万円、山田に代わつて支出した諸経費合計金三二四万七三九〇円、原告の申告に係る同年度の売上多寡金三四四万一八〇〇円、原告の申告に係る第一係争年度に計上した所得欠損金四六万二八四八円、昭和四九年度の繰越所得欠損金六六四万〇一一九円を差し引いた金一〇九三万八二六三円となり、したがつて、更正処分一において原告の所得を過大に認定した違法はなく、また、右認定事実によれば、原告は第一係争年度の法人税の課税標準の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装をしたというべきであるから、更正処分一に付随してなされた賦課決定一も適法というべきである。

2  第二係争年度

原告の第二係争年度の総所得金額について判断するに、原告の申告所得金額が金〇円であり、計上された繰越欠損金額が金三二〇万九三〇四円であることは当事者間に争いがないところ、前記認定のとおり第一係争年度において昭和四九年度の繰越欠損金はすべて同係争年度において処理されたため、原告が第二係争年度において計上した右繰越欠損金額は所得金額に加えられるべきものであり、これから計上もれであることを被告が自認する支払登記費用金二万〇六八〇円を差し引き、さらに、第一係争年度の所得金一〇九三万八二六三円に対する未納事業税金九九万七五六〇円を損金として差し引いた金二一九万一〇六四円が総所得金額と認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、更正処分二において原告の総所得金額を過大に認定した違法はなく、また、右認定事実によれば、原告は第二係争年度の法人税の課税標準の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装をしたというべきであるから、更正処分二に付随してなされた賦課決定二も適法というべきである。

3  第三係争年度

原告の申告所得金額が〇円であること及び計上された繰越欠損金が金二五五万七九五一円であることは当事者間に争いがないところ、前記認定のとおり第一係争年度において処理されたことの明らかな右繰越金額を加え、これから第二係争年度の所得金二一九万一〇六四円に対する未納事業税金一三万一四六〇円を損金として差し引いた金二四二万六四九一円が総所得金額であると認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、更正処分三において原告の総所得金額を過大に認定した違法はなく、また、右認定事実によれば、原告は第三係争年度の所得を過少に申告していたものであるから、更正処分三に付随してなされた賦課決定処分二も適法というべきである。

二 理由附記について

1  第一係争年度

青色申告における更正処分の理由附記制度の趣旨は、処分庁の恣意抑制と納税者に不服申立ての便宜を図ることにあり、更正処分一のように帳簿書類の記載を否認して更正する場合には、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする必要があるところ、前掲乙第一号証によれば、更正処分一においては山田の申立て等の資料に基づいてなされ、また、前掲各証拠及び前記一1の認定事実に照らせば、これらの資料が帳簿の記載以上に信憑力のあることも認められるから、更正処分一の理由附記はその制度の趣旨に沿つた適法なものと認めるのが相当であり、他に右認定に反する証拠はない。

2  第二係争年度

更正処分二の理由附記が被告主張のとおり適法であることは当事者間に争いがない。

三 除斥期間について

前記認定事実に照らせば、原告の行為は、昭和五六年六月一日法律第六一号による改正前の国税通則法七〇条二項四号に掲げられている「偽りその他不正の行為」に該当するものと認められるところ、更正処分一は右不正行為により税額を免れた国税に対する更正処分として、除斥期間は同法の定めにより五年となるから、同処分に除斥期間を徒過した違法はない。

四 結論

よつて、本件各処分は適法であり、原告の本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 加藤幸雄 裁判官 岩倉広修)

別表一 第一係争年度分(昭和五〇年一月一日から昭和五〇年一二月三一日の事業年度)

〈省略〉

別表二 第二係争年度分(昭和五一年一月一日から昭和五一年一二月三一日の事業年度)

〈省略〉

別表三 第三係争分(昭和五二年一月一日から昭和五二年一二月三一日の事業年度)

〈省略〉

別表四

貸付金債権等の明細

〈省略〉

別表五

土地譲渡明細表

〈省略〉

別表六

〈省略〉

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